第1話「いかさま法、保険業法第三百条第1項4」

私は長いことサッカー選手だった。14歳から34歳までの足掛け21年間、サッカーから離れることなく常に1選手としてボールを蹴り続けた。
サッカーでは、ルールを厳格に守ることはすなわちフェアプレイであり、反則を犯すことはダーティということになる。サッカーの世界でルールを厳格に守るダーティプレイはないし、ダーティなフェアプレイはあり得ない。

ルールは厳粛であり、白か黒かに分けるシンプルな基準である。私にとってサッカーをやり始めた時からかれこれ40年以上、それは疑問の持ちようがない明白な論理であり、“ルールは神様”だった。

ちょっとまわりくどくなったが、転換契約の調査を始める前、私の頭の中に「生保のダーティプレイが不法行為でない筈はない。」という考えがあった。そこで私は、不法に該当する法律とは一体どの法律で、どの部分が不法に該当するのか、それを調査することにした。

転換契約の実態は詐欺である。なぜなら、詐欺の最重要構成要件である欺もう(人をあざむき、だます)行為が常に含まれているからである。
転換では、まず、高くなった本来の保険料を提示することなく、下取り後の保険料のみ提示する。具体的には、「保険料は2万円で、これまでと変わりません。」という言い方の説明をするが、それは、これまで積み立ててきた将来もらう筈だった受取金を取り崩して、新たに契約する転換契約の保険料に一括して充当した後の金額だからだ。変わらないのではない、今まで貯めてきた貯金を先に注ぎ込んでいるのだ。
実体として保険料は上がっている。基本的に、これまでの契約を解約して、新たに転換契約に入り直す訳だから、年齢に比例して保険料上がるに決まっています。
また、この時同時に、ほとんどの場合、これまでの契約を解約する説明をしていません。

そして、もうひとつの転換契約共通の欺もう(人をあざむき、だます)行為が、将来もらう筈だった受取金は、加入時の予定利率が約束された、契約者に有利な資産であったのに、それを解約したことでふいにしてしまった、その説明を一切していないことである。

実は、私は、以前某損保に勤めていたので、保険募集における契約者保護及び法令遵守について、一通りの知識を有していた。だから、この生保の募集行為が、立証面から、仮に詐欺罪を適用することが困難だとしても、保険法や保険業法に照らして、違法ではないかと考えていた。

調べてみると、保険業法第三百条第1項4に、転換契約の募集行為について定めた条文があった。
「保険契約者又は被保険者に対して、不利益となるべき事実を告げずに、既に成立している保険契約を消滅させて新たな保険契約の申込みをさせ、又は新たな保険契約の申込みをさせて既に成立している保険契約を消滅させる行為(不当乗換行為)の禁止」である。

述べてきたように、通常生保は「不利益となるべき事実を告げずに、契約者に転換契約の申込をさせている。」つまり、現に不法行為が行われている。疑問の余地はない。
だからこの法律は、この実態に照らすと、この法律によって不法行為が抑制されない有名無実の法律である。

ここで私は、あることに気がついた。
この条文は「不利益となるべき事実を告げるなら、不当乗換行為をすることができる」と読み直すことが可能だ。よって、 もし生保が「不利益となるべき事実を告げて、転換契約の申込をさせていたら…」不法行為にならないことになる!

すなわち、不法行為になるかならないかの判定は、「契約者にとって不利益となるかならないかではなく、不利益となるべき事実を告げたか告げなかったか」にかかっている。

さて、サッカーには、オフサイドパスという攻める側にとって極めて有利で、守る側にとって圧倒的に不利な情況をつくるパスを禁止するルールがある。
ほとんどの場合シュート直前のラストパスだから、仮にオフサイドパスを許せば、守る側にとって決定的に不利な情況をもたらし、フェアな戦いは成立しない。
攻める方が事前にそのパスを出すことを言おうが言うまいが、オフサイドパスは不法行為である。
(オフサイドパスについて、もしご存知ないようでしたら、こちらをご参照ください。)

ところがこの保険業法第三百条第1項4は、「事前にそのパスを出すことを言えばダーティプレイをやってもよい(=不法行為にならない)」としているわけである。
「ルールを守るダーティプレイ」がここに目出度く成立する。

金融庁は「不利益となるべき事実を告げることを条件に、転換契約というダーティプレイ(契約者にとって不利益となる契約)を認めた」ことになる。

現実は、こういうことである。
実際には、不利益となるべき事実を告げたら、契約者は転換契約の申込を回避する。
当然の話だ。損することが分かっていて申込をする者などいない。
そこで、申込を回避されないように、生保は契約者に不利益を悟られない必要がある。
この解決手段とは、一定の書類(「設計書」、「内訳明細書」、「重要事項説明書」、「契約のしおり」)を渡して署名捺印を取れば、“不利益となるべき事実を告げたことにしたのた”。申込書の中に、それらの書類を受け取ったということを示す「受領印欄」があるのはそういう意味なのである。

“法の抜け穴”という表現があるが、監督機関自ら“抜け穴”を準備しているとしたら、許し難い話だ。
この不利益となるべき事実を告げたことにした“抜け穴”の存在によって、生保は、保険契約者の資産を搾取できる転換契約を、自在に推進できる特典を手に入れた。
契約者=一般国民の不利益となる制度を認め、準備したのは、実は国だという、何ともやりきれない話である。

オフサイドパスを条件付で認めた、極めてアンフェアなルール、それがこの保険業法第三百条第1項4の正体です。
しかも、その条件にしても、告げてもいないのに告げたことにできる“抜け穴”まで準備して、一方だけにオフサイドパスを許すノンオフサイドルール。
これは最早サッカーとは言えません。

因みに、保険業法第一条(目的)を紹介しておきます。

「この法律は、保険業の公共性にかんがみ、保険業を行う者の業務の健全かつ適切な運営及び保険募集の公正を確保することにより、保険契約者等の保護を図り、もって国民生活の安定及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする。」
何とも空しい響きである。


「保険業法第三百条第1項4」補足説明

では、なぜこんなアンフェアな法律が存在するのか?という疑問への明確な答えがないと、どうもすっきりしないと思います。

私の答えは、”これは、金融庁が、生保の収益改善を手助けするために設けた苦肉の策”です。
本来なら、契約者保護の観点から、「告げようが告げまいが契約者の不利益となるべき取引」自体を認めてはいけません。

よく知られていることですが、バブル崩壊以降、とりわけ国内大手生保は、高金利時代に募集した積立型生命保険(中心は終身保険と養老保険)で約束した予定利率に見合う運用ができずに、所謂逆ザヤ商品を大量に抱えていました。一時期は、将来の支払負担が収益を圧迫し、経営危機に陥る可能性を指摘されていました。
そして、この状況を解決する唯一最大の手段が、高金利商品の積立型生命保険を解約して、掛捨て型の高収益商品に切り替える転換契約なのです。
ですから、金融庁は、生保の収益改善を手助けするために、契約者の不利益となることを分かっていて、この転換契約という募集行為を認めたのです。

どう考えても、それ以外の理由はありません。

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