第8話「治療期間中の保険会社対応」

交通事故被害者のあなたを担当する損害保険会社の担当者は、損害保険会社の損害調査部門に所属している“人身傷害”担当の社員です。

あなたは残念ながら、その担当者と示談交渉の終結まで付き合わなければなりません。
彼はその道のスペシャリストであり、日々同様なことを繰り返し、この世界を知りつくしています。

つまり、あなたにとって全くの初体験である示談交渉は、彼にとっては日常なのです。
ですから、あなたは、彼をそういう人種だと割り切り、気にすることなく、自分の権利を守ることに邁進しなければいけません。

鉄則
さて、示談交渉終結までの保険会社対応は、交通事故の被害者にならなければ、知る必要のない、非日常のノウハウです。
しかし、交通事故の被害者になった以上、自分を守るために、素直に学び実践する必要があります。後悔しなくて済むための鉄則だとご理解ください。

鉄則の実践は、今後あなた自身を守る盾となる可能性が十分にあります。
逆に言うなら、盾を失ったあなたは、いつ罠に嵌められるか分かりません。
今は分からないと思いますが、保険金示談交渉という、非日常の殺伐とした世界に放り込まれたのです。

①提出を求められた書類は精査する
示談交渉の過程で、数多くの書類への署名押印と提出を求められます。必ず内容を精査して署名押印をしてください。

②提出書類はコピーをとる
提出する書類は必ずコピーを取ってください。保険会社の行為の動かぬ証拠となります。

③ICレコーダーに録音する
全てとは言いませんが、保険会社の担当者の言葉を録音してください。
担当者がよく口にする“嘘”があります。
「たまに」「偶然」ではなく、「日常的に」「意識的に」口にする”嘘“です。
録音は“嘘”に対する“最大の防御”となるでしょう。

ここでひとつだけご紹介しておきますが、保険会社の担当者は、よく「~することになっている」「決まりだ」というセリフで、交渉相手を誘導します。
しかし、そのほとんどはウソです。

また、この手のウソは、厳密に言えば“詐欺”に該当します。
ICレコーダーに録音することが、どれだけ重要か、お分かりいただけると思います。

そして、そうした誘導に従わない理由として、保険会社の担当者に、「その旨を記述した会社の正式文書を提出してください。」と伝えてください。
ウソの場合は提出できませんから、ピタリと誘導がなくなります。

④ノートにメモする
いつ何があったか、ノートにメモを残しましょう。

同意書
保険会社から提出を求められる書類の最初のものです。
同じ同意書ですが、実は2種類あり、ひとつは「病院宛の同意書」、もうひとつは「保険会社宛の同意書」となります。(2種類を統合したタイプもあります。)

・「病院宛の同意書」
保険会社からの照会に対して、病院が診断結果や症状についての情報を提供することに同意する文書です。

・「保険会社宛の同意書」
病院に対して、保険会社が、診断結果や症状についての情報を提供することを求めることに同意する文書です。

*「病院宛の同意書」の一部改変
「病院宛の同意書」には、「~株式会社または同社の依頼先」の照会に対して同意する旨の文言がありますが、問題はこの「または同社の依頼先」の部分です。
つまり、保険会社はよく調査会社(探偵)に依頼して調査(あら捜し)をします。
自社の利益のためには手段を選ばないのが保険会社です。

ですから、「または同社の依頼先」を削除して、「担当~氏」に差し替えます。
こうすることで、「~株式会社担当~氏」のみの照会に同意したことにできます。
この場合、病院は「担当~氏」以外の照会には対応しなくてよいことになります。

頚椎捻挫の治療費打ち切り予告
保険会社では、とりわけ頚椎捻挫に関して、治癒(治療費打ち切り)の目処を、1、3、6ヶ月としています。

*保険会社が考える頚椎捻挫の治癒経過
保険会社は、頚椎捻挫の症状経過を急性期、亜急性期、慢性期に分けて、治療からの離脱をパターン化して考えます。
その内容とは以下の通りです。

・急性期(受傷後3~4週間)
固定と安静によって悪化防止に努めます。

・亜急性期(受傷後1~3ヶ月間)
症状は軽くなり、ほぼ治癒に到達します。

・慢性期(受傷3ヶ月以降)
治療からなるべく早く離脱させ、受傷前の生活に戻していきます。いつまでも治療を継続することは、病院に対する依存、あるいは薬物に対する依存を深め、社会生活への復帰を阻害することになりかねません。

上記の認識と方針から、保険会社は、担当医師に打診し、被害者にも治療費打ち切り予告とも取れる言葉を投げかけます。(ほとんどの場合、整骨院にも同様な内容を伝えます。)

あなたは、そこで誘導に乗って安易に承諾してはいけません。治療継続の必要性は、保険会社の意向とは関係ありません。
あなたが、受傷前の状態に完全に戻らない限り、最低半年は症状の軽快を目指して治療を継続すべきです。

ここで最もポイントなるのが、具体的な自覚症状と担当医師の所見です。
ですから、あなたは、定期的な通院時に、痛みや日常生活の支障について担当医師に明確に伝え、治療及び整骨院での施術の継続の必要性を訴えてください。

通常、医師は、外傷や神経損傷が画像で確認できていない場合、保険会社の誘導に引きずられる傾向があります。
そうならないために、受身の受診態度ではなく、主体的な受診、定期的な通院が重要になります。

休業損害請求
あなたが給与所得者(会社役員以外)で、治療期間中に入院・通院・自宅療養により仕事を休み、給与収入が減少した場合は、保険会社に休業損害を請求できます。

治療期間が長引けば減収も避けられず、生活への影響もまた避けられません。
給与所得者の場合は、使用者の「休業損害証明書」だけで毎月の減収分を請求できるため、保険会社に所定の用紙をもらい、早目に手続きをしましょう。

*休業損害額の算出

・日額
事故前3ヶ月間に支給した月例給与(賞与は除く)の合計額を90日で除して日額を求めます。

・認定日数
実際に休業した日数が基準ですが、使用者が支給対象としなかった申告日数が認定されることになりますので、期間日数(1月間であれば30~31日)を申告してもらってください。日額も90日という期間日数で除して求めましたので、請求額も同様な基準で計算します。

・休業損害額 *「休業損害証明書」はこちら
「休業損害証明書」の中に、「計算根拠記入欄」があり、そこに算出した日額×認定日数=損害額を記入してもらいます。

・賞与減額証明書
治療期間中の休業による賞与の減額があった場合も使用者の「証明書」だけで減額分を請求できますので、忘れずに請求しましょう。

尚、給与所得者(会社役員以外)以外の休業損害請求については、損害賠償請求全体に含めて行いますので、ここではなく、後で改めて説明します。

通院交通費請求 *「通院交通費明細書」はこちら通常は、損害賠償請求全体に含めて行いますが、もしあなたが、治療期間が長期に渡ったり、タクシー等の利用により、多額の実費が発生している場合は、保険会社に所定の用紙「通院交通費明細書」をもらい、定期的に請求手続きをしましょう。
所定の用紙に明細を記入し、領収証等を添付して提出するだけです。

もちろん、これらのコピーを忘れずに取っておいてください。

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