「日向農協 モナコ観光不正融資事件裁判」

3年1ヶ月に及んだ裁判の控訴審判決が12月23日下され、12月30日、この裁判のすべてを書き終えました。

3億円もの損失処理は、杜撰な経営によってもたらされたが、経営陣はその責任をとらなかった。私は、一般常識とかけ離れた対応をした経営陣の経営責任を明らかにするために、代表訴訟の原告として提訴し、目的を果たした。

平成25年4月27日の宮崎日日新聞に、日向農業協同組合が、回収不能となった3億200万円の損失処理をするという記事が掲載された。貸出先は、モナコ観光というパチンコ業者である。この損失処理は、4月26日に開催された総代会で承認され、同日新組合長に選出された福良公一氏(現JA宮崎中央会会長)は、「融資の手続きに瑕疵はなかったが、今後何らかの形で責任の再検討を考える必要はあるかもしれない。」と述べた。

それから2年4ヵ月後の平成27年8月12日、日向農協の組合員2名が、旧経営陣5名を相手に株主代表訴訟を起こした。5名に対して、損失処理をした3億200万円を日向農協に支払えという損害賠償請求だった。つまり、5名に対して、損失処理の経営責任を追及した訳である。

平成29年9月、私は、自宅で資料を整理している時に、平成25年4月27日の宮崎日日新聞記事が出てきた。その時、「代表訴訟の結果はどうなったのだろう?」と、ふと思った。「融資の手続きに瑕疵はなかった」という福良公一組合長のコメントが妙にひっかかった。直感的に、「ウソではないか?」と思ったのだ。

そこで私は、宮崎地裁延岡支部に資料の閲覧に行くことにした。行ってみると、かなり膨大な資料だった。全てに目を通すのに、丸2日間費やした。

興味深い内容だった。予想通り、「融資の手続きに瑕疵はなかった」とのコメントとはまったく異なる、不正融資の実態が浮かび上がった。簡単にチエックしただけでも、相当に怪しい内容を把握できた。この時私は、いつの間にか、自分が原告として追及するいくつかのポイントを発見していた。私は、じっとしていられなくなった。

裁判は、開始から2年以上経過している。終盤に差し掛かり、尋問は間近である。そして、私は、自分が日向農協の準組合員であることを思い出した。つまり、私にも訴える権利がある。私は、急いで株主代表訴訟について調べた。

調べた結果、私は、第2原告として代表訴訟の提訴が可能だとわかり、10月下旬、準備に着手した。提訴は、平成29年11月24日、先行する裁判の証拠調請求(尋問請求)の11月27日直前だった。私の提訴は、ギリギリ間に合い、先行する裁判に統合された。(平成29年(ワ)132号)

私は、被告を元組合長の川村嘉彦氏と福良公一氏の2名に絞った。理由はふたつあった。先行する第一原告裁判(平成27年(ワ)101号)を検証し、1回目の大口融資である平成14年5月4億8000万円については、直接経営責任を問うことは困難だと判断したからだった。そうすると、101号の被告2名は対象外となる。また、残る101号の被告3名の内、尾形副組合長と中田常務理事については、不正融資のキーマンとは言えなかった。

それに対して、川村嘉彦元組合長は、本件事件にキーマンとして一貫して関わり、2回目の大口融資である平成19年11月7200万円と3回目の大口融資である平成20年12月7200万円において、組合長として実質的に最終決定権者だった。そして、川村嘉彦元組合長時代に参事及び常勤監事を務めた福良公一元組合長(現JA宮崎中央会会長)が、この不正融資事件において実質的に大きな役割を果たしていた。

私は、提訴時点で、先行する101号裁判の内容を把握していたので、被告をこの2名に絞り、かなり明確な戦略を持っていた。そして、戦略は間違ってはいなかった。

第一審判決は、令和元年6月26日、被告川村嘉彦元組合長、尾形浩一元副組合長及び中田武満元常務理事は、連帯して2671万円を支払えという内容だった。また、令和2年12月23日の控訴審判決も、第一審判決と同内容だった。これで、判決はほぼ確定した。残念ながら福良公一元組合長(現JA宮崎中央会会長)の責任は問えなかったが、最低限の目的は果たした。「融資の手続きに瑕疵はなかった」のではなく、大いにあったのだ。

さて、本著は、第1部ストーリー編(不正融資に至った経緯)、第2部事件分析編、第3部裁判編、第4部日向農協ガバナンス編の4部構成とした。日向農協という組織の実態を分析し、なぜ本件不正融資事件を招いたのか、原因究明をした。また、本件不正融資事件の経緯において、川村嘉彦元組合長と福良公一JA宮崎中央会会長が果たした役割を描き、経営責任の観点から検証した。

本著を読むポイントは、事件の全貌を理解することと不正融資の原因究明である。そして、私が結論した原因は次の4つ、融資実務の未熟さ、収益拡大路線、経営者個人の問題、ガバナンスの問題である。したがって、読者は、この4つの要素を読み取り理解することで、本件事件の真の姿を捉えることができるだろう。

「事実は小説より奇なり」の言葉通り、驚くべき事実が多く、フィクションではないかと勘違いしそうになる、ある意味、現実離れして楽しめる内容である。

それから、忘れてはならないのは、この裁判は、本来、日向農協の組合員の利益を守るための裁判だったということである。判決によって、日向農協には、2671万円と3年4ヶ月分の金利(約440万円)計3111万円が支払われる。第一原告も私も、組合員のために戦ってきたのであるから、日向農協には、全額組合員に還元して頂きたいと考えている。

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