第5話「示談交渉過程と賠償額決定の関係」

損害賠償は、通常、下記の2パターンのどちらかの過程で行われます。

Aパターン(被害者側が請求に関する知識と要領を把握している場合)

①保険会社からの賠償額提示 → ②被害者による賠償請求額の算出 → ③被害者による保険会社への請求 → ④示談交渉 → ⑤合意 → ⑥支払

Bパターン(被害者側が請求に関する知識と要領を把握していない場合)

①保険会社からの賠償額提示 → ④示談交渉 → ⑤合意 → ⑥支払

一目瞭然ですが、Aパターンに含まれる②被害者による賠償請求額の算出と③被害者による保険会社への請求のふたつがBパターンにはありません。
この意味するところは以下の通りです。

自動車保険は、ご存知のように、強制加入である自賠責保険と任意保険の2重構造ですが、上記の①保険会社からの賠償額提示の額は、実は、ほぼ100%自賠責保険の支払基準に基づいて算出された額です。

つまり、Bパターンの損害賠償請求に関する知識と要領を把握していない、一般的な被害者の場合、自賠責保険の支払基準に基づいて算出された「保険会社からの賠償額提示」に対して、被害者はそれが正式な基準に基づいて算出された額だと受け止め、なすすべなく「合意」(署名捺印)することになります。

保険会社は、あたかも自社が支払わなければいけないように装いますが、実は、自賠責保険金の支払限度額内で損害賠償が終結するなら、自社の支払額はゼロで済みます。
補足するなら、自賠責保険会社は支払事務を担当するだけで、交渉の表には立たず、表に立つのは任意保険会社ですが、“一括請求”と言って、任意保険会社は、自賠責保険金を含めて、賠償額の交渉をしています。

Bパターンの場合、①保険会社からの賠償提示額、すなわち自賠責保険金だけで承諾するなら、本来請求できる賠償額と比較して、どれくらい損をすることになるのでしょうか?
ケースによってかなりの違いがありますので、一概には言えませんが、約2~3倍は違ってくると言ってもいいでしょう。

逆に言うと、あなたが、損害賠償の仕組みを理解し、本来請求できる賠償額を算出でき、しかるべき交渉法を学ぶならば、つまり、Aパターンでしっかり交渉できるなら、保険会社からの当初提示額の約2~3倍の額を受け取ることが可能となってきます。

言い換えると、交渉過程を示したAパターンの「②賠償請求額の算出 → ③請求」を、自分自身でできるかどうかが、自分の利益を守れるかどうかの分岐点だといえます。


上記で紹介した保険金額の関係を模式図に表すと、以下のようになります。

A本来の損害賠償請求額=b+a=自賠責保険金(保険会社提示額) + 任意保険金請求額

B自賠責保険金=b=自賠責保険金(保険会社提示額)

C示談交渉後の和解額=b+c=自賠責保険金(保険会社提示額) + 任意保険金和解額

額を比較すると、A>C>Bという不等式が常に成り立ちます。

通常、保険会社は、裁判による判決などの法的拘束力が働かない限りaを支払うことはなく、自社の負担額、すなわちcを減らす様々な対策を講じ、示談交渉を進めます。
前述したとおり、保険会社が目指しているのは、自社負担額ゼロのBパターンです。

結果として、同じ損害を受けた被害者であっても、損害賠償に関して何も知らないままならB、本来の損害賠償請求額を掴み示談交渉をするならC、さらに裁判までするならAを受け取れる現実があります。

そして、なぜこのような不明朗で理不尽な現実があるのかを、簡単に説明することはできません。
不明朗で理不尽であることが、良い筈はありませんが、現実世界では決して珍しいことではありません。

とにかく、本記事では、読者個人の利益を最大限に守る方法を伝授します。

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