第7話「交通事故被害者の病院における初期対応」

交通事故でケガをすると、病院で検査と手当てを受け、回復に向けて治療が開始されます。
通常のケガと決定的に違うのは、その補償(費用や損害に対する金銭的代償)が、自動車保険によって支払われる点です。

そして、あなたは、補償を十分に得るために、すなわち、自分の利益を守るために、これから説明する様々な理由により、通常のケガの治療の場合とは異なる対応をする必要があります。

これを体系立てて、全て理解することは、正直、非常に困難です。
したがって、必須事項、重要事項に限り、その必要度に応じて詳しく説明することにします。本書の目的は、不必要に詳しく解説することではなく、あなたの利益を守ることです。

交通事故後、あなたが入院もしくは通院した病院及び受診内容に関して、チエックが必要ないくつかの重要事項があります。
これらは全て、あなたがもらえる損害賠償額に大きく影響します。
単に治療費の問題ではありませんので、そのことを忘れずに、読み進めてください。

以下がそのチエック事項です。

(1)部位・傷病名
まず、部位・傷病名が正確かどうか、初診以後、症状の変化や拡大がないか?
痛み等の症状と傷病名との整合性は取れているか?(症状と傷病名が一致しない場合は、他の傷病名の疑いがある。)

(2)検査結果
初診時に何検査をしているか、結果はどうだったか?レントゲンでは異常が画像に出ていなかった場合、MRI検査ではどうだったか?

*MRI検査
MRIにも種類があり、磁力の大きさによって0.2~3.0テスラまでの値があります。
数値が大きいほど解像度が上がります。1.5テスラ以上の解像度が性能的に望ましいでしょう。
また、通常7ミリスライスでの撮影が行われますが、7ミリ未満に症状が隠れていることも十分可能性がありますので、異常の可能性が高い箇所について、1ミリスライスでの撮影を依頼しましょう。

治療と症状の変化
治療内容と処方されている薬は何を目的としているのか?成果は上がっているか?

通院頻度
通院頻度は適切か?(慰謝料算定と後遺障害認定において、通院頻度と期間面でのチエックが必要となります。)

*整骨院の場合
とりわけ、痛みの緩和という点で整骨院が被害者に大きな恩恵をもたらしていることは間違いありません。
そういう理由から、病院と併用することは合理的であり、医師も否定する理由がありません。

また、慰謝料を算定する上での通院頻度の面で言えば、病院と整骨院の通院合計が2日に1日以上であれば、全日数対象となり有利です。

しかしながら、整骨院のみに偏重して病院への通院を省略してしまうことは、後に後遺障害認定の申請をする上では、明らかに不利に働きます。
病院の入通院日数、通院頻度は、後遺障害認定に影響します。
最低でも週に1度は病院に通院しておく方が賢明です。

また、医師の指示による鍼灸院、マッサージの治療費は補償の対象にはなりますが、慰謝料を算定する上では、整骨院が病院と同じ扱いであるのに対し、実日数のみ対象とされます。

医師とのコミュニケーションと信頼関係
担当医と意思疎通を図り、信頼関係を築いておくことは非常に重要です。

その理由は、まず自覚症状を真摯に聞いてもらえます。また、丁寧な診察と必要な検査を実施してもらえます。
さらに、「後遺障害診断書」作成を依頼した時、スムーズに書いてもらえます。

被害者にとって、これらのメリットは、賠償額を左右する重要要因となります。

*医師と保険会社の関係
交通事故の被害者は、通常健康保険を使わない“自由診療”で治療し、病院は健康保険の2~2.5倍の診療報酬を得ています。
したがって、医師は高い医療費を負担している保険会社に対して、一定の気兼ねをしなければなりません。

逆に言えば、保険会社は医師に対して比較的強く言える立場ですから、被害者は、このことを頭に入れて、担当医が保険会社側に立っていないかどうかを見極めることも必要です。

医療費・治療費負担
病院であれ整骨院であれ、交通事故被害者の治療費は損害賠償の対象ですから、賠償責任者が支払義務を負うべき費用であり、病院も整骨院も健康保険ではなく、直接加害者側の保険会社に全額請求します。
これを“自由診療”と言い、治療内容や使用する薬の制約がなく、請求者も一定の範囲で自由に請求できることになっています。

一般的に、病院は健康保険の2~2.5倍の診療報酬を請求します。
整骨院は、通常各地区の組合と保険会社との間で協定(大体健康保険の20%増し程度)が存在し、それに基づいて請求しています。

いずれにしても、被害者は自分の健康保険を使用する必要はなく、また、自由診療は健康保険では対象とならない治療や薬が使えますので、被害者にとって、健康保険の使用は、受ける医療サービスの面で不利なことにも繋がります。

あなたに過失があり、自己負担に対する人身傷害保険等の補償が得られない場合は、自由診療だと過失分に関しては全額自己負担しなければならなくなります。
その場合は健康保険を使用することで自己負担を30%にできますが、その場合を除いて、自分の健康保険を使用するメリットや理由はありません。

病院を変えたい場合
比較的珍しくないことですが、担当医との関係がよくない場合、被害者は非常に憂鬱な状況に陥ります。
そして、この状況に何も対策を講じないと、あなたの利益を守ることは極めて困難になります。

結論から言えば、以後の治療や後遺障害診断書の作成に支障が予想されるのであれば、保険会社に通知して、了解を得た上で病院を変えましょう。

但し、事前に変える病院を見つけて、保険会社には表向きの合理的な理由を作ってから通知してください。


注意すべき症状

交通事故被害者の症状は多岐に渡ります。
事故直後の症状から、予想もしていなかった症状の変転が生じることがあります。

また、担当医師(整形外科)の多くは、専門外の症状については、残念ながら診断できません。

そうして、変転した症状の原因や傷病名が分からない状態が生じ、当然適切な治療は行われませんので、症状は改善せず、精神的に不安定になり、担当医師への不信感が生じるなどの悪循環に陥ります。

さらに、この状況は、損害賠償面でも大きなデメリットに繋がります。
つまり、後遺障害認定は医師の「後遺障害診断書」に基づいて行われるため、該当する後遺障害認定が行われないことになるのです。(恐らくそれによって失う賠償額は、数百万円、場合によっては1千万円を超えることになります。)

本記事は、医療知識を詳しく説明することが本来の役割ではありませんので、以下に、注意して欲しい傷病名だけ紹介します。
もしあなたが、以下の症状に該当するなら、できるだけ早く、専門医の診断を受けてください。

RSD(CRPS)
疼痛性感覚異常とも言われます。交通事故で外傷を受けると、交感神経の緊張(反射)が高まり、神経伝達物質であるアドレナリンが放出されます。

アドレナリンは血管を収縮させて出血を抑制しますが、過剰放出され続けると血流障害が生じ、排泄・分泌機能の低下、活性酸素による組織破壊が進行します。

*RSDの主な症状

1)疼痛・灼熱痛

2)腫脹:体や組織の一部が腫れあがる。

3)関節拘縮:骨萎縮が起き、範囲が拡大する。

4)皮膚変化:皮膚が光沢を失い、蒼白となり、皮膚温が低下すると共に乾燥する。

*受診上の注意点
担当医師がRSDの認識に疎く、勘違いして心療内科や精神科を紹介した場合、心療内科や精神科では、「神経症」「うつ状態」と診断する可能性があります。
そのような医療過誤を避けるために、信頼できる麻酔医やペインクリニックで受診してください。

高次脳機能障害
交通事故による頭部外傷の影響が、感覚機能、運動機能は異常なしにもかかわらず、記憶力が低下し、仕事の要領が把握できず、忍耐力が極端に低下するなど、社会適合能力が欠落します。

*高次脳機能障害の主な症状

失語症、失行症、失認症、記憶障害

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