第14話「損害賠償請求の内容」

保険会社からの賠償額提示

さて、あなたは予定通り自賠責保険の後遺障害等級認定を受けたでしょうか?
第話で説明したように、損害賠償請求をする前に、保険会社からの賠償額提示を受け、損害賠償額を算出します。

保険会社からの提示賠償額は、恐らく自賠責基準に近い金額でしょう。
また、保険会社からの提示を黙って待つのではなく、あなたから担当者に「示談したいので賠償額の提示をお願いします。」と伝えましょう。


損害賠償の内容

長い予備知識の解説を経て、やっと核心に入ります。
まず、損害賠償の項目と内容について確認しましょう。つまり、賠償請求できる項目には何があり、どのような内容のものかです。

傷害保険金

①治療費(実費)
病院、及び原則医師が認める整骨院、鍼灸、マッサージ等の費用及び薬品代等。

②付添看護料(実費または相当額)
付き添いの必要性がある場合に認められます。
医師の指示、医師の指示がなくても受傷の部位や程度によって客観的に必要性が認められる場合、及び12歳以下の子供の場合は、治療の面から必要はなくても、社会常識上認められます。
また、看護婦や家政婦に支払った実費の他、近親者による付き添いの場合でも相当額が認められます。

③入院雑費(定額)
入院中の雑費の明細として、日用品(寝具・衣類・洗面具・食器)購入費、栄養費(牛乳代等)、通信費(電話代等)、文化費(新聞代・テレビ賃借料等)

④通院交通費(実費または相当額)
症状などにより止むを得ない場合のタクシー代、電車・バス代、自家用車利用時の実費(ガソリン代)相当額

⑤休業損害
治療期間中の休業ないしは不十分な稼働状況により、事故がなければ得られたであろう収入を失ったことによる損害。

1)給与所得者
事故前の収入を基礎として、受傷によって休業したことによる現実の収入減

2)事業所得者
現実の収入減少+休業中の固定費支出、申告書・会計帳簿による裏付が必要

3)会社役員
役員報酬の労務対価部分を休業損害として認容する。労務対価部分の役員報酬に占める割合は、個々の企業の規模、当該役員の執務状況、その諸般の状況を考量して判断する。

4)家事従事者
主婦に限らず、主として家事労働に従事する者を対象に、女子平均賃金をもって損害額を算定する。
注意してほしいのは、主婦がパートで働いていて仕事を休んでいない場合でも、休業損害は請求できます。詳しくは次項をご覧ください。

5)失業者
労働能力並びに労働意欲のあるもの、治療期間内に職を得る蓋然性(可能性)高い場合に認める。

6)学生・18歳未満の未就労者
アルバイト収入などの収入があった者は認める。

⑥入通院慰謝料
傷害を受けたことによる苦痛、入・通院によって身体的自由が奪われ、さらに、検査や治療行為による苦痛や煩わしさ等に対して、金銭をもって賠償する。

⑦その他
装具・眼鏡代等、文書料(交通事故証明書・印鑑証明書・住民票等)

後遺障害保険金 

①後遺障害逸失利益
逸失利益とは、後遺障害によってそれまでのように仕事ができなくなり、その影響による将来の減収分のことです。
算定における基本的な考え方は、現実の収入減に関係なく、労働能力の喪失自体を損害として捉えます。算定式は、下記の通りです。
後遺障害逸失利益=年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

1)年収
休業損害の場合と異なり、現実に立証される事故前の年収を基礎として計算を行ったのでは妥当性に欠ける場合が出てきます。
通常、収入は就労当初は低水準で年齢と共に上昇する傾向があり、就労当初の低水準の収入を基礎に将来発生する損害を算出すると、現実の収入と著しく乖離する恐れがあります。
そのため、適切な判断に基づき、現実の事故前の年収及び賃金センサス(厚生労働省が発表する平均賃金統計)のいずれかを算定に採用します。

2)労働能力喪失率
労働能力喪失率とは、後遺障害を負ったことによって失った労働能力の割合のことを言います。
後遺障害等級に応じて一定の率が決まっています。尚、喪失率は基準値として使用されますが、個別のケースによって加減されることもあります。

「労働能力喪失率表」はこちら

3)労働能力喪失期間
労働能力喪失期間とは、後遺障害を負ったことによって失った労働能力の結果、減収を強いられる期間を言います。
症状固定時に54歳以下の場合は67歳までの年数、55歳以上の場合は、平均余命の1/2の年数、67歳までの年数が平均余命の1/2より短くなる者については、平均余命の1/2の年数を基本に、個別のケースによって加減します。
未就労者の就労の始期については、原則として18歳としますが、大学卒業を前提とする場合は大学卒業予定時とします。

*頚椎捻挫・腰椎捻挫等神経症状の場合
事実上別途扱いされており、12級で5~10年、14級で5年以下が一般的です。

4)ライプニッツ係数
ライプニッツ係数とは、労働能力喪失期間(年数)を5%の複利計算で利息控除した後の数値のことです。

*年少者のライプニッツ係数の求め方
事故発生時から就労終期年齢までの係数から、事故発生時から就労開始年齢までの係数を控除して求めます。

事故発生時X歳、就労開始年齢18歳、就労終期年齢67歳の場合

(67-X)年間のライプニッツ係数-(18-X)年間のライプニッツ係数

「就労可能年数とライプニッツ係数表」はこちら

②後遺障害慰謝料
後遺障害が残った場合、その苦痛、外見の悪さ、生活に対する影響等に対し、その損害の補償を慰謝料として請求できます。

現状は、等級に応じた慰謝料を機械的に算定しています。
しかし、本来は、個人個人の趣味・スポーツ、生活状況、性別等を勘案して適性額を決定すべきと言え、訴訟では個別事情に応じた増額が行われています。

*近親者の慰謝料
死亡に比肩するような精神的苦痛を受けた場合は、近親者にも慰謝料請求権があります。金額については、本人分の20~30%が目安です。

③介護料
医師の指示または症状の程度により必要があれば認められます。

死亡保険金 

①死亡逸失利益
基本的には、後遺障害逸失利益と共通の考え方で、後遺障害の労働能力が100%失われた場合と考えられます。
ただし、死亡により、生活費の支出を免れた利益分の調整のため、生活費分の控除を行う点が異なっています。算定式は、下記の通りです。

死亡逸失利益=年収×(1-生活費控除率)×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

・生活費控除率
被扶養者がいるかどうか、及び性別により、30~50%控除します。

②死亡慰謝料
本人分と遺族(父母・配偶者・子)分を合計した金額を求めます。
また、一家の支柱か、妻か、その他かで違ってきます。

③葬儀費
一定限度(定額)内において認められます。
但し、立証資料(領収証)等の合計額が定額以上でなければなりません。

その他 

①弁護士費用
訴訟において判決に至った場合は、認められた損害賠償額の10%程度が弁護士費用として、別途認められます。
判決に至らない場合は、自費負担となります。(第話で説明しましたように、自分の保険の弁護士費用特約を利用すれば、300万円までは自己負担がありません。)

②遅延損害金
本来、損害賠償責任に含まれない性質のものですが、現実には、訴訟において判決に至った場合は、認定された損害賠償額に対し、事故日を起算点として年5%の遅延損害金が加算されます。

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