第18話「解決方法」

さあ、被害者としての困難に負けずに、権利実現に向けて、忍耐強く、着実に進めていきましょう!

では、実際の方法はどのように進めたらよいのでしょうか?

1.示談

もちろん直接保険会社と交渉して示談(和解)することもできます。
しかし、現実問題、算出請求額と保険会社提示額に大きな金額差があれば、歩み寄って和解に至ることは、可能性として低いでしょう。

逆に保険会社は示談での解決を望みます。なぜなら、低い賠償額で、交渉のコストもゼロで、早く終了するからです。担当社員は実績として最も評価されます。

何も知らない被害者に対して、保険会社の担当者は、ほんのちょっとだけ譲歩して(目の前にえさをぶら下げて)和解に誘導します。
実際、ほとんどの被害者がまんまと術中にはまるのです。
また、単純に提示額に承諾しないだけでは交渉は平行線を辿り、時間だけが費やされる、立ち往生状態に陥ります。

仮にここで被害者自身の力でするとしたら、第7章で作成した「請求額計算表」「損害賠償請求額集計表」の根拠とした裁判基準で算出した請求額を逆提示して、交渉を粘ることになりますが、保険会社が歩み寄る可能性は低いと言わざるを得ません。

ですから、そうなる前に(保険会社に請求額を提示せずに)サッサと次のステップ(仲裁機関の利用)に進むことをお勧めします。

2.仲裁機関

交通事故のメインの仲裁機関には2つありますが、基本的には相手の保険会社もしくは共済によってどちらを選択すべきかが決まります。

また、どちらを選択するにしても、仲裁機関は、示談交渉が上手くいかないから仲裁を依頼するという前提がありますので、保険会社から提示を受けた後に、一度承諾を拒否または保留した上で、依頼をしなければいけません。

仲裁機関は、利用者にとって、権利確保の有効な手段で、しかも無料という大きなメリットがあります。費用をかけずに裁判基準に近い賠償額を得るための手段、それがここで紹介する2つの機関です。

(1)財団法人交通事故紛争処理センター
通称「紛セン」といい、全国に10箇所の拠点があります。

損害保険協会加盟の保険会社(ほとんど加盟しています。)、JA共済、全労災の場合、利用します。

1)特徴とメリット
・中立的弁護士
建前として、委託された弁護士が中立的立場で和解を図ります。
中立的という表現は微妙なニュアンスがありますが、実際、弁護士によっては保険会社寄りと言ってもおかしくない者もいるようです。
その理由をここでは詳しく説明しませんが、保険会社の影響力がここにも及んでいるということは事実です。
また、あなた自身が費用を負担して依頼した弁護士ではありませんので、あなたの立場に立つことは、基本的にありません。その点、冷静に、客観的に、事情を説明するように心掛けてください。

・裁判基準での和解案あっ旋
基本的に判例に基づいていますので、裁判基準に近い和解案をあっ旋します。
本書で解説したように、裁判基準も慰謝料のような比較的明確なものと、そうでないもの(例えば逸失利益)があります。ただ、基本が裁判基準であること自体、有利には違いありません。

・和解率が高い
案件の約90%は和解に至っています。
和解に至った実績数字を確認すれば一目瞭然です。期待していいでしょう。

・裁定審査会
担当弁護士による和解案を承諾できない場合は、3名の委員で構成される「裁定審査会」での審査を受け、裁定案を出してもらうことができます。
これも被害者にとって非常に有利な制度です。但し、唯一の難点は時間がかかることです。(半年以上余計にかかることを覚悟してください。)

・片面的仲裁
保険会社は、紛センが出した裁定案に拘束され、これを拒否することはできません。一方、被害者側は拘束されず、不服なら拒否して裁判に訴えることも可能です。

被害者が裁定案を承諾しさえすれば和解成立です。

2)「お申込から終了まで」はこちら
紛センのホームページでご確認ください。

3)必要書類
センター指定のものと、和解を有利に進めるために自発的に準備するものとの2種類を準備します。
①指定書類
「ご用意いただく主な資料等」はこちら

②自発的準備
電話予約により初回相談日が指定されます。
初回相談日には、①指定書類一式以外に、以下の資料を持参してください。そうすることによって、初回相談日での確認作業がスムーズに進み、より早く有利な和解案のあっ旋につながる可能性が高くなるからです。
イ)第7章で作成した「請求額計算表」「損害賠償請求額集計表」
担当の弁護士はこれを見てすぐに全容がつかめますので、和解案を作成しやすくなります。当然、その分仕事は楽になり、スピードアップにつながります。
ロ)「状況説明書」
あなたの抱える、事故及び後遺障害による日常生活と仕事に対する影響を伝えるため、作文を書いて、他の資料に添付して提出します。
多少作文力が必要ですが、とにかく、内容として、「認定等級と認定理由」「職歴と仕事内容」「事故後の仕事と日常生活における支障」「今後の人生への影響」について、わかり易く、具体的に書いてください。
担当弁護士に有利な判断をしてもらうというより、あなたが被った心身両面での損害と、今後の人生への悪影響に関する客観情報を提供し、公平な判断をしやすくできれば、結果的にプラス要因となる筈です。

(2)財団法人日弁連交通事故相談センター
全国34ヶ所で示談あっ旋や審査を行っています。
JA共済、全労災、及び、教職員・自治協会・町村生協・都市生協共済の場合、利用します。(JA共済、全労災に関してはどちらでも可能ですが、信頼性の面から紛センを優先します。)

1)特徴とメリット
・中立的弁護士
・裁判基準での和解案あっ旋
・審査会

上記3点については、紛センと同様と言ってよいでしょう。また、最初の和解案で和解しなかった場合の審査会の結果については、共済側が拒否できず拘束力を持っています。
また、拠点が多く審議が早い(紛セン程混み合っていない)という利点はあります。

ただ現状では、システム面と実績面で紛センに劣ります。

2)申込方法
紛センと違い、詳しい案内はなく、まず電話相談からスタートします。

「示談成立のお手伝い」はこちら

3)必要書類
紛センと同様に準備してください。

*尚、タクシー共済、トラック共済、関東自動車共済については、紛セン、日弁連共に拘束力を持ちません。残念ながら、現状は、弁護士を検討しなければならない厳しい情況です。

3.訴訟と弁護士選択

訴訟は言うまでもなく最後の手段ですが、この問題は同時に弁護士の選択とセットで考えなければなりません。
そして、とにもかくにも、最も考えなければいけないのは、あなたのケースではどの解決法が一番有利かということです。
弁護士起用も、訴訟に持ち込むかどうかに限らず、柔軟に検討しましょう。
その観点から、検討要素と注意点を説明します。

(1)仲裁機関での不調
仲裁機関でも思うような結果が得られなかった時は、残るは訴訟しかありません。
すぐに信頼できる弁護士を探して依頼しましょう。

(2)損害の大きさ
損害が大きければ賠償額も高額になります。保険会社は訴訟に持ち込まれて、高額の賠償金を命じられることは避けたいところです。
逆に言えば、あなたにとっては訴訟の方が有利かもしれません。

(3)障害の程度と複雑さ
後遺障害には、比較的一般的な障害以外に、第3章で紹介したRSD(CRPS)や高次脳機能障害、あるいはPTSD(非器質性精神障害)等の精神疾患など、非常に判断が難しいものが少なくありません。
このようなケースでは、早目に専門の”交通弁護士“の選択ということを検討すべきです。

(4)弁護士費用特約の有無
第2章で説明しましたが、仮にあなたが弁護士費用特約を使えるなら、前向きに検討してよいでしょう。但し、保険会社の紹介ではなく、必ず自分で弁護士を選んでください!保険会社が紹介する弁護士は、100%保険会社と繋がっています。あなたの利益は守られません。

(5)弁護士選択
交通事故事案は特殊です。相手が百戦錬磨の保険会社ですから、交通事故事案に強い”交通弁護士“を選択するのは必須条件です。
絶対に経験のない一般的な弁護士や、保険会社の息がかかった弁護士を選ばないでください。 あなたの利益を守るどころか、正反対の結果になり兼ねません。

後は、一般の弁護士選択でも共通する、実績、対応の真摯さ、速さ、説明の丁寧さなど、いかに信頼に足るかを検討してください。

あとがき

「交通事故損害賠償請求実戦ノウハウ」という大それたネーミングですが、そのタイトルに恥じない内容のものにしたつもりです。

出版に至るまでには、実に多くの紆余曲折がありました。かつて損保社員でありながら、保険会社への不信感を感じていた私は、いずれは一般の消費者のために、自分が身に付けた知識とノウハウを提供したいと考えていました。

しかし、当然ながら、情報公開をするには高いハードルがいくつもあり、幾度となく断念しそうになりました。退職から数年を経て、ようやく私は、電子出版という手段を見つけ、数年がかりの膨大な研究成果を、一般の消費者と交通事故被害者のために公開するゴールに辿り着きました。

本書の出版は、私にとってある意味必然的な帰結でした。本書が、交通事故被害者救済に結びつくことは、私自身の大きな喜びです。

心から、交通事故被害者である読者の賠償請求の成功、被害からの回復をお祈りいたします。

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