第3話「通知義務違反による保険金不払い!」

私が損保に勤めている時にこんなことがありました。
休み明けの月曜、出勤すると、上司から呼ばれ、次のように言われました。
「あなたが担当している代理店の顧客から自損事故の届けがあったけど、保険金は支払えない。代理店を訪問して、そのことを話してくれ。」

事情はこういうことでした。
母親が記名被保険者である家族のセカンドカーを、最近県外に就職した息子が持っていき、転居先で使用していた時に、自損事故を起こしました。
幸い怪我はなかったものの、車は大破、ぶつかったガードレールの修理代も含めると、百数十万円の損害でした。
運転者限定条件は「家族限定」でしたから、被保険者には、家族である息子も「別居の未婚の子」に該当し含まれます。約款にもそう書いてあります。

ところがここで”通知義務違反”にひっかかりました。
約款及び、契約時の「注意喚起情報」(保険の世界では、生保も損保も、契約者にとって不利になるかもしれない、特に注意していただきたい事項を、事前に契約者に文面で説明し配付しなければならないことになっている。)には、次のような文言がありました。

お客様には、ご契約の締結後に、告知事項のうちの一部の事項に変更が生じた場合、遅滞なくご通知いただく義務(通知義務)があります。
ご通知がない場合には、ご契約を解除させていただくことがあります。また、その場合、既に発生している事故について保険金をお支払いできないことがあります。

このケースでは、「ご契約のお車を主に使用する方が変更になる場合」が該当してしまいしました。
つまり、現契約内容は、「ご契約のお車を主に使用する方」は母親であり、息子ではありません。
息子が「別居の未婚の子」として被保険者に該当するのは、あくまで、たまに実家に帰ってきた時に家の車を運転するケースであり、実家を離れて、転居先にもって行った先では被保険者には該当しないという理屈です。

こうして、契約者は、もしもの時のために自動車保険に加入し、保険料を払っていましたが、この事故での保険金は出ませんでした。
保険という商品は複雑なので、ほとんどの人が、自分が加入した保険の契約内容について詳しくは知りません。
そして、契約内容について知らないと、保険金はあらゆるケースで支払われるものと頭から信じていることになりますが、実際には支払われないケースが少なくないのです。

事故は前触れなく突然やってきます。
くれぐれも、後で悔やむことがないように、前もって、契約内容の確認をしましょう!

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